
「日本に永住している外国籍の私が、日本の財産について遺言を残せるのか」「本国の形式で書いた遺言は日本で使えるのか」「印鑑を持っていないが遺言書に押印は必要か」――外国籍の方の遺言では、どの国の法律で判断するか(準拠法)と、どの形式で作るか(方式)を分けて考えることが出発点になります。
結論からいうと、遺言の成立と効力は遺言をした時点の遺言者の本国法によりますが、遺言の方式は、行為地法・本国法・住所地法など5つの法のいずれかに適合すれば有効とされています。日本で作るなら、日本の民法が定める自筆証書・公正証書・秘密証書の方式を使えます。さらに、2026年6月24日に公布された民法等の改正で、自筆証書遺言などの押印が任意になり、パソコン等で作成できる保管証書遺言が新設されます(いずれも施行日は政令で定める日)。本記事では、法の適用に関する通則法・遺言の方式の準拠法に関する法律・民法・公証人法の条文と、法務省の案内を軸に整理します。
国籍の異なる人が遺言をするときは、まず「どの国の法律で判断するか(準拠法)」が問題になります。法の適用に関する通則法(以下、通則法)は、次のように定めています。
| 何を判断するか | 準拠法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 遺言の成立・効力 | 遺言をした当時の遺言者の本国法 | 通則法第37条第1項 |
| 遺言の取消し | 取消しの当時の遺言者の本国法 | 通則法第37条第2項 |
| 相続(誰がどれだけ相続するかなど) | 被相続人の本国法 | 通則法第36条 |
| 遺言の方式 | 通則法ではなく「遺言の方式の準拠法に関する法律」による | 通則法第43条第2項 |
ここで大切なのは、「遺言」と「相続」で準拠法を定める条文が別だという点です。遺言が有効に成立するかどうかは通則法第37条、遺言で財産を受け取る前提となる相続そのものは通則法第36条(被相続人の本国法)で判断します。外国籍の方の遺言では、両方を本国法で確認することになります。
通則法第41条は、本国法によるべき場合に、その国の法律に従えば日本法によるべきときは日本法によると定めています(反致)。本国の法律が、たとえば「相続は住所地の法律による」といった定めを置いていれば、日本法で判断することになる場合があります。本国の法律がどのように定めているかは国ごとに異なるため、個別に確認が必要です。
二重国籍の方は、国籍を持つ国のうち常居所がある国の法律が本国法になります。いずれかの国籍が日本の国籍であるときは日本法が本国法です(通則法第38条第1項)。

遺言の方式(どのような形式で作れば有効か)は、通則法ではなく遺言の方式の準拠法に関する法律によります。同法第2条は、遺言の方式が次のいずれかの法に適合するときは、方式に関し有効と定めています。
たとえば、日本に住む外国籍の方が日本で遺言をする場合、日本の民法の方式(行為地法・住所地法)で作れば、方式の点では有効になります。本国の方式で作った遺言も、本国法(国籍国の法)に適合していれば方式の点では有効です。
💡 ポイント:方式が有効でも、それだけで遺言の内容がすべて実現するとは限りません。成立・効力や相続は本国法で判断されるほか(第2章)、実際の手続(銀行・登記・本国の役所など)で求められる書類の形式は別に確認が必要です。どこで・どの方式で作るかを最初に決めておくことが、後の手続を円滑にします。
なお、遺言者の年齢や国籍などによる方式の制限、遺言に必要な証人の資格も、方式の問題として扱われます(同法第5条)。
日本の民法では、普通の方式の遺言は自筆証書・公正証書・秘密証書の3つです(民法第967条)。
| 方式 | 作り方 | 証人 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 全文・日付・氏名を自書し、押印する。財産目録は自書でなくてもよい(各ページに署名・押印) | 不要 | 必要(法務局の保管制度を使えば不要) |
| 公正証書遺言 | 証人2人以上の立会いのもと、遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が作成する | 2人以上 | 不要 |
| 秘密証書遺言 | 遺言者が署名・押印して封じ、公証人1人と証人2人以上の前に提出する | 2人以上 | 必要 |
※ 押印の要件は、2026年公布の民法等改正で任意になります(施行は公布から1年以内の政令で定める日)。詳しくは第7章で説明します。
根拠:民法第968条・第969条・第970条・第1004条
公正証書遺言・秘密証書遺言の証人には、未成年者、推定相続人と受遺者(遺言で財産を受け取る人)、これらの配偶者と直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人はなれません(民法第974条)。外国籍の方の場合、ご家族を証人にしようとして該当してしまうことがあるため、早めに証人を確保しておくことが大切です。
公正証書遺言は、公証人が作成し、原本が公証役場に保管される方式です。家庭裁判所の検認も不要です(民法第1004条第2項)。
外国籍の方にとって重要なのは、公証人法第29条です。同条は、嘱託人(遺言をする人)が日本語に通じない場合、公証人は公正証書を作成するときに通訳人に通訳をさせなければならないと定めています。日本語での読み書きに不安がある方でも、通訳を介して公正証書遺言を作ることが法律上予定されています。
外国に住む日本人が公正証書・秘密証書で遺言をするときは、日本の領事が公証人の職務を行います(民法第984条)。海外在住の日本人の方は、在外公館で遺言を作れる場合があります。

自筆証書遺言は手軽な一方、紛失・改ざんのおそれや、相続開始後の家庭裁判所の検認が必要という負担があります。法務省の自筆証書遺言書保管制度を使うと、法務局(遺言書保管所)が遺言書を保管し、相続開始後の検認が不要になります。
法務省の案内による主な手続は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請先 | 遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所 |
| 申請する人 | 遺言者本人が予約のうえ来庁する |
| 主な持ち物 | 遺言書、保管申請書、住民票の写し等、顔写真付きの官公署発行の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)、手数料 |
| 外国語で書いた場合 | 遺言書の日本語による翻訳文を添付する |
| 手数料 | 遺言書1通につき3,900円(収入印紙) |
| 保管期間 | 原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは同150年間 |
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」(2026年10月6日閲覧)を当事務所が整理。
外国籍の方が利用するときの注意点は次のとおりです。
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。遺言制度の主な見直しは次のとおりです。
| 改正の内容 | 概要 | 施行 |
|---|---|---|
| 押印の任意化 | 自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別の方式の遺言で、遺言者と証人などの押印要件を廃止し、押印を任意とする(加除・変更の際の押印も任意) | 公布から1年を超えない範囲で政令で定める日 |
| 証人の欠格事由の拡大 | 受遺者だけでなく、その被用者(受遺者が法人の場合は被用者と役員)も証人になれない | 公布から1年を超えない範囲で政令で定める日 |
| 保管証書遺言の創設 | パソコン等で作成した遺言のデータやプリントアウトを法務局に提供し、本人が遺言の全文を口述するなどして法務局が保管する新しい方式。オンライン申請が可能で、法務局が相当と認めるときはウェブ会議も利用可能 | 公布から3年を超えない範囲で政令で定める日 |
| 死亡危急時遺言などの見直し | 録音・録画を使い、証人1人以上の立会い(ウェブ会議可)で作成できる方式を追加 | 公布から1年を超えない範囲で政令で定める日 |
出典:法務省民事局「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」および「民法等改正法の概要」(2026年10月6日閲覧)を当事務所が整理。
印鑑を使う習慣のない国の方にとって、押印の任意化は自筆証書遺言のハードルを下げる改正です。ただし、2026年10月時点では施行日が決まっておらず、現行の民法第968条は押印を求めています。改正の施行前に自筆証書遺言を作る場合は、押印をしておくのが安全です(法務省の保管制度の案内では、押印は認印でも問題ないが、スタンプ印は避けるよう求めています)。
保管証書遺言は、パソコン等で作成でき、法務局が相当と認めるときはウェブ会議も利用できる方式として予定されています。全文を口述する手続がある一方、法務省の概要では、口がきけない方は口述に代えて通訳人の通訳や自書が可能とされています。運用の詳細は、施行に向けて今後示される見込みです。
作れます。遺言の方式は、行為地法や住所地法など5つの法のいずれかに適合すれば有効とされているため(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条)、日本で日本の民法の方式に従って作ることができます。ただし、遺言の成立・効力は本国法によります(通則法第37条第1項)。
法務局の自筆証書遺言書保管制度では、外国語で作成した遺言書も、日本語による翻訳文を添付して保管の申請をすることができます。公正証書遺言は公証人が作成し、遺言者が日本語に通じない場合は通訳人が通訳をします(公証人法第29条)。
現行の民法第968条では、自筆証書遺言に押印が必要です。2026年公布の民法等改正で押印は任意になりますが、施行日は政令で定める日(公布から1年以内)とされ、2026年10月時点では決まっていません。施行前に作るなら押印をしておくのが安全です。
遺言の方式が本国法(遺言の成立または死亡の当時に国籍を有した国の法)に適合していれば、方式の点では有効とされます(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条第2号)。実際の手続では、翻訳文や本国の証明書類が求められることがあります。
推定相続人と受遺者、これらの配偶者と直系血族は、証人になれません(民法第974条)。公正証書遺言・秘密証書遺言では証人が2人以上必要なため、早めに確保しておくことをおすすめします。
2026年6月24日の公布から3年を超えない範囲で政令で定める日に施行されます。2026年10月時点では施行日は決まっておらず、まだ利用できません。
外国籍の方の遺言は、次の順に整理すると見通しがよくなります。
海外に住むご家族が相続人になる場合の書類については「在留証明と署名証明」、外国へ提出する書類の認証については「アポスティーユと公印確認」もあわせてご覧ください。
当事務所は、宮崎県宮崎市の行政書士法人として、外国籍の方・国際結婚のご家族の遺言・相続と在留手続をお手伝いしています。
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ご自身で出入国在留管理局へ在留資格の申請をされる方へ。提出の前に、申請書と添付書類を確かめ、足りない書類や気をつける点をお伝えします。オンライン(Google Meet・20分程度)でも、LINE でもお受けします。
・対象:在留資格の認定・変更・更新の申請です(永住は、宮崎県内にお住まいの方に限ります)。帰化は対象外です。
・オンライン(Google Meet)は、1つの申請につき1回です。LINE でのお返事は、同じ申請について、提出の前までお受けします。
・LINE のお返事の目安は、原則2営業日以内です(土日・祝日はお休みです。混み合うときは、お返事が延びることがあります)。
・書類の写しは、LINE かメールでお送りください。在留カードは表面だけを、マイナンバーの面は送らないでください。
・お伝えするのは当事務所の意見です。許可を保証するものではなく、結果は出入国在留管理局の判断によります。
・お伝えするのは、足りない書類や気をつける点までです。申請書の作成や書き直しの代行、文案の作成はしません。許可の見込み(通るかどうか)もお伝えしません(当事務所にご依頼いただく場合は、セルフ準備コース・ライトプラン・スタンダードプランをご案内します)。
・事実と異なる内容の書類だと分かったとき、またはご本人(ご家族を含みます)の申請でないと分かったときは、チェックをお断りします。
本記事は2026年10月時点の公開情報に基づいて執筆しています。遺言の成立・効力や相続の準拠法、本国の法律の内容は、遺言者の国籍・居住地・財産の所在地など個別の事情によって異なります。2026年公布の民法等改正の施行日・運用は、今後政令等で定められます。遺言の有効性をめぐる紛争や家庭裁判所での手続、相続税に関するご相談は、弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。実際の手続にあたっては、法務省・法務局・公証役場の公式情報または当事務所までご確認ください。
本記事の執筆者:申請取次行政書士 中山 諭
行政書士法人みやざき国際法務事務所 代表
所在地:宮崎県宮崎市